まちづくり

ふるさと納税を活用して自治体が目指すものとは

ふるさと納税が普及して、毎年のように細かい運用ルールが見直されています。

認知が広がったため、本来の趣旨に沿った扱いをしていこうというのが総務省の意向ではないかと思います。

今回は中間管理事業者として関わる経験を通して見えているもの、今後の方向性についてご紹介したいと思います。

なぜふるさと納税が生まれたのか -制度趣旨と背景-

ふるさと納税制度は、2008年に制度がスタートして以来、多くの自治体に財源的な支援をもたらしてきました

総務省は、制度の三つの意義として以下を掲げています。

  • 納税者が使い道を考える機会の創出(納税意識の向上)
  • 故郷や応援したい地域を選んで支援できる仕組み(共感型の寄附)
  • 自治体間の健全な競争を促す(地域政策の向上)

また、ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合も以下のような理念を掲げています。

  • ライフサイクル・バランス税制の構築
  • 納税者主権の実現
  • 自治体政策の透明性と質の向上

これらの理念に共通するのは、寄附者と自治体の間に、金銭的なやりとりだけではない、精神的・社会的なつながりを築くことに重きを置いているという点です。

ふるさと納税を活用して目指すもの -寄付額の増加以外に何ができるのか-

ふるさと納税制度は、単なる寄附金の獲得にとどまらず、地域に多面的な価値をもたらす可能性を秘めています。

地域事業者の体力強化

返礼品に地場産品を登録することで、地域事業者が、自社製品のブラッシュアップ、パッケージ改善、販売管理、在庫管理など、マーケットと向き合う力を身につけていきます。

特に全国からの注文に対応することで、流通・品質管理・お客様対応などの基礎体力が鍛えられます。

ふるさと納税がなくなった後も売上が続く環境を作っていくというのは、地域事業者にとっては大きな不安材料であると思いますし、ここができると地域の本当の体力がついたと言えるのではないでしょうか。

そういう点では、事業者の成長を促す視点というのも大切なのではないかと思います。

地域ブランディングの推進

全国の寄附者に返礼品を通じて地域の魅力を届けることは、潜在的な関係人口や観光客の獲得にもつながります。実際に、返礼品をきっかけに現地を訪れるリピーターも増えています。

寄付をもらってお礼状を出して終わりではなく、その後につなげる一手間が大切なのではないかと思います。

シビックプライドの醸成

市外の人たちがこれだけ寄付をしてくれるというのは、暮らしている市民にとってはうれしいことかと思います。寄付をもらって、市内の福祉が向上する。それだけで良いのかと感じる市民も増えてくると思います。

そういう意識を高めることで、ふるさと納税の取り組みを市民が応援したり、市内へ訪れる寄付者への対応が変わったりということも出てくると思います。

ただ、この点も市民に知ってもらう場を作らないと動きが出てこないため、意識すべき取り組みかと思います。

現状の課題と今後の予測

一方で、制度の運用が成熟するにつれ、いくつかの構造的な課題も顕在化してきました。

地域間格差の拡大

魅力ある農産物・海産物を持つ地域が寄附を集めやすく、都市部や産品に乏しい地域は厳しい競争にさらされています。

特に、一次産業に頼れない自治体は、返礼品開発や関係人口創出において戦略的な工夫が求められています。

広告・委託費の負担増

ポータルサイト手数料や広告費、コンサル契約料など、寄附額の10〜20%以上が地域外に流出しており、自治体の財政的健全性が問われつつあります。

税の公平性の歪み

都市部の納税者の多くが制度を活用する一方で、都市部自治体の税収流出が大きく、行政サービスの維持に影響を与えているとの声もあります。

高所得者が実質的に得をする構造も見直しの議論が進んでいます。

制度の「通販化」

「ふるさとへの応援」という理念から離れ、「いかに豪華な返礼品を得るか」という競争に傾きすぎている面も否めません。

理念と運用の乖離が課題です。

ふるさと納税制度が一定程度普及してきたからこそ、見えてきた部分もあり、総務省ではここ数年ふるさと納税を本来の趣旨に戻そうという動きをしています。

最終的には返礼品自体がなくなる可能性もゼロではないと思います。

ふるさと納税を推進する中でも、本来の趣旨を意識した取り組みが大切になります。

とは言っても、現状の寄付者ニーズに合わせないと寄付が入らないという現実もあります。

理想としては、自分の地域を応援したいという人からの寄付ですが、実際は、この返礼品が魅力だから寄付というニーズをとらえる必要があるということですね。

一方で、現状の寄付額が少ない自治体はチャンスではないかと思います。

というのも、返礼品の魅力ベースの寄付集めではなく、自治体のファンづくりをベースとした寄付集めに集中できるからです。

すでに一定程度の寄付額がある自治体としては、寄付額を減らせないという思いがあるので、既存の顧客を確保する取り組みに一定割合を割かざるを得ません。

寄付額が少なければ、そういった迷いがなく進めるのではないでしょうか。

今後の制度改正を見据えた上で目指すべき方向性

理想ばかり追い求めて、眼の前の寄付はどうするんだという指摘を受けるのは重々承知の上で、今後のふるさと納税のあるべき方向性について考えてみたいと思います。

地元事業者の伴走支援

最優先は、地域事業者の自立です。

これまではふるさと納税という制度に乗ることで、自動的に売上が増えるといった環境でした。

競合が少ない中で出していたので、出せば売れるという状態でした。

それが競合が増える中で商品力、マーケティング力の差が出つつあります。

それができてこなかったので衰退してきたのだと思いますが、ふるさと納税は底力をつける機会となるかと思います。

共感を得る、ファンづくりのための寄付活用

これは税金の活用方法という広い意味でも言えることですが、医療費や給食費の無償化といったお金で解決できることは、他の地域も同じことをするので、お金の戦いになってしまいます。

お金の戦いになると、豊かな自治体が勝つに決まっているので、差は縮まりません。

人と人とのつながりなど、お金を出しただけではすぐに解決できないもので魅力づくりをしていくのが良いのではないでしょうか。

この点ではすでに地方創生分野で成果が出ている地域は有利かと思います。

ファンは自治体、自治体職員、地域事業者、市民など、いろいろな対象があるので、それぞれが同じ方向を向いて動いていくことが大切かと思います。

今後、各ポータルサイトのポイント制度がなくなると、返礼品自体は各ポータルサイトで探して、寄付は自治体のポータルサイトからといった動きをしてくる人もいるのではないでしょうか。

ふるさと住民票の制度導入も見据えて、お金ではない関係性を作っていく一工夫を考えておくと良いかと思います。

最終的には地域をどうしていきたいかに集約する

今は、寄付額がいくら集まったかに意識が行きがちですが、ふるさと納税の制度趣旨を追求していくと、地域をどうしていくかということに帰結すると考えています。

すでに寄付が集まっている自治体は、せっかく集まっているのだから、うまく活用するのが良いと思いますし、寄付が集まっていない自治体は、将来のことを考えて土台のところから考えた取り組みのスタートもありではないでしょうか。

残念ながらこういった取り組みはすぐに成果の出ないものばかりです。

スモールゴールを設定して、一つひとつを着実にこなしていく。

あきらめずに継続することが大切ではないかと考えています。

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