行政

なぜ民間は利益を追求するのか

民間は利益を追求します。
その利益は私利私欲のためなのでしょうか。
私は利益を追求の意味というのは変わってきている気がします。

民間と公務員の違い

収入のあり方

前提として、民間と公務員の違いを認識しておく必要があります。
1つは収入に強制力があるか否かという点です。
公務員の場合は、税金で義務なので、強制的な徴収になります。
一方で、民間の場合はサービスの対価としての支払になるため、任意のものになります。
この点で、必ず収入を得られる立場と、利用者の一定程度の満足を得られないと継続した収入を得られない民間の違いがあります。
少し話はずれますが、民間活力の活用という点で、ここを活かそうと思うと、行政が毎年一定金額の運営費を支払う形式ではなく、設定されたサービス費によって運営するといった形が適しているのだと思います。

身分保証の有無

公務員は身分が保障されています。
余程のことがない限り解雇されることはありません。
もちろん、勤務の成績が悪ければ出世には響くと思いますが、成績が悪くても給与がゼロになることはありません。
一方で、民間は業績が悪ければボーナスはなくなりますし、倒産すれば収入もなくなります。
解雇されるリスクというものも常にあるわけです。

利益とはなにか

私はこの2つの違いを補うものが利益なのかなと思います。
逆に言うと、行政は毎年決められた予算をすべて使い切ります。
むしろ、使い切らないと予算を修正して、予算と決算の金額を合わせる必要が出てきます。
行政も貯金にあたるものはありますが、貯金の段階で用途が決まっているというのが特徴かなと思います。
全く用途の決まっていないお金を持っておくことというのが嫌われます。
民間の場合は、そのあたりは定まっていなくて、用途の定めないお金というものを持つことができます。
そして、この用途の定めのないということが行政から見るとブラックボックスで私利私欲のために使われていると思われてしまうのかと思います。
実際に企業側で見た利益の用途としては2つかと思います。

リスクに備えた貯金

これは収入が安定しないからこそ必要なお金です。
たとえば、起業をするときは1年間仕事をしなくても生きていけるだけの貯金を用意してから起業するといったことが書かれていますが、1年何も収入がなくても会社を維持できるだけの貯金というのは大切だと思います。
経営していく上で必ず固定費というものはかかるので、従業員の給与、事務所の賃貸料、通信費、消耗品費、交通費あたりはあまり大きく変わるものではないので、確保しておくのが望ましいでしょう。
逆に考えると、ここをしっかりさせない状態では従業員としても不安になってしまうのではないでしょうか。
コロナが2年以上続いていることを考えると、2年間収入がなくてもやっていけるだけの体力があれば存続できますが、それがなければ倒産もしくは解雇するしかなくなるわけですね。

新規事業のための投資

もう1つが新規事業のための投資です。

新たな事業を行うには必ず投資が必要で、投資の資金を回収できるのは、必ず投資をした後になります。

そのため、現金がたとえば現金が1000万円あったとしても、1000万円すべてを投資に使ってしまうと、投資を回収するまでの従業員の給与などを支払うことができません。

そう考えるとたとえば固定費(給与など)で毎月100万円かかっていると、200万円投資した場合は、8ヶ月以内にその投資を回収しないと倒産してしまいます。

行政事業の場合は、4月に契約をしてもお金が入ってくるのが翌年4月ということも珍しくありません。

そうなると、1年分の固定費を確保しておく必要があるため、先に述べた収入がなくなったときのリスクの1年分と合わせて2年分の資金は確保が必要になるわけです。

そして、その残りがようやく新規投資に充てられることになるわけで、会社を立ち上げたばかりの会社というのは、ここの部分がなかなか厳しいのではと考えているところです。

さらにいうと、個人の貯金と法人の貯金はちょっと違います。
それは、個人であれば、給料をそのまま貯金すれば終わりなのですが、会社の違うところは、税金がかかってくるところです。
たとえば、10人の従業員を雇っていて、1人400万円かかっているとします。
そうすると、万が一収入がなくなっても経営を続けていくには4000万円が必要になるわけですが、4000万円を貯めるためには、4000万円の利益を上げただけでは貯まりません。
法人税は約3割ぐらいなので、5700万円の利益をあげて初めて4000万円のお金が手元に貯金できることになります。
1700万円は税金になるわけですね。
この税金がもったいないと言ってしまうと、いつまで経っても自転車操業で、社員を安心させることができません。
視点を変えて社員側としてみると、自分の給料分働いているだけでは、安心を得ることはできないことになります。
400万円の給料をもらっている人が、会社の業績が悪くなっても雇用を継続できるようにするためには、1000万円の利益が必要ということになります。
これにはその人の人件費しか経費に入れないでの計算になるので、実際は原価やその他の経費も含めて考えないといけないので、売上としてはもっと稼がなくてはいけません。
自分の給料分働けば良いという考えだと、会社というのは縮小していくしかないわけで、もし、自分の給料分だけ稼いで生活したいのであれば、個人事業主になることをおすすめします。

公務員から起業して生じた変化

私は公務員の時、民間で働いていた時はこんなことは考えもしませんでした。
経営をする立場になったからこそ気づけたのですが、ここに至るまでに学んだこと、トレーニングしたことは多かったなと思います。
たとえば、何事についても事業としてどう成り立っているかと考えるクセがつきました。
たとえば、ほとんど本を置いていないようなボロボロの本屋がなんで成り立っているかというと、図書館や学校への納品する本を扱っているからだったりします。
普段人が入っているようには見えない高級レストランは、平日昼間の料理教室で収益をあげているということがあります。
たこ焼き屋を見ても、賃料と客単価から、どの程度の来客があれば成り立つのかと考えたりしています。
よく公務員はビジネスを知らないと言われますが、それは取り組んでいる事業が事業性を必要としないため身につきにくいのであって、身につけようと思えば身につくものだと思います。
これは私自身の実体験から証明できたと思います。
ただ、ここまで至るには結構な経験も積んできたと思うので、このギャップをうまく埋めていくにはどうしたら良いのか今後は考えていきたいと思います。
私自身がゼロから経営を学んだので、わかりやすく説明することはできるつもりです。
しかし、問題はわかりやすさというよりも、その前段の民間は営利を追求していて、大切な税金で儲けようとしているみたいな考え方をどう変えていくかというところのような気がします。
正直なところ、私も未だに持っているのですが、お金を稼ぐことが悪いことというか、リスクヘッジ分を追加した金額を請求するということに対する抵抗感のようなものがあります。
適正な金額というのは誰にも判断ができないもので、基本的には投資を回収する期間での逆算で決めるのが良いのではないかと考えていますが、すでに実践されている事業であれば前例に従うというのもありだと思います。
不動産業界では仲介における手数料の上限が決められていたりもするので、そういう形だとさらに楽ですね。
そのような形で定められていればある程度納得しやすいのかもしれませんが、定められていないものは判断が難しいので、行政としても理解するのは難しいかもしれません。
特に収入がなくなるリスクをどうヘッジするのかという部分は想定しにくいのではないでしょうか。
民間への出向というものがありますが、これは民間のノウハウを学ぶためということで派遣していることが多いと思います。
身分保証のない本当の民間の立場にならない出向というのは、民間のノウハウは学べても、民間の立場までは学びきれないのだと思います。
私はたまたま公務員、民間、経営者の3つの立場を経験したので、そのあたりの違いに気づくことができたのかなと思うところです。
官民連携や協働といったことを進めていくにはこのあたりの認知を広げていく必要があるような気がします。
しかも、行政が発注者で民間が受注者という立場を変えることができないことを前程とすると、受注者側は発注者に従うしかないので、行政側が変わる必要があるのかもしれません。
これは、全国の自治体にとってはチャンスです。
この部分を言語化できて、理屈で理解できている人は皆無のため、いち早く変わった自治体に民間が集まるからです。
これまでの官民連携の先進事例はなんとなく民間、行政の双方が担当者レベルでわかり合っていたのでうまくいったという形だと思います。
しかし、それではその担当者が移動した瞬間に終わりになります。
これからは、どの職員も同じようなスタンスで取り組めるようなマインドの部分も含んだ官民連携というものを目指していけると良いかと思います

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