まちづくり

市民主体のまちづくりの解 ~地域のエンタメ化~

市民主体のまちづくりがしたいと思って市役所に入りました。

自分たちのまちは自分たちでつくるというのが基本だと思っていました。

ただ、実際は多くの人が自らの生活が大切で、まちのことは関心がない、大きな影響が出なければ特に問題はないという人がほとんどではないでしょうか。

市民参画、協働、シビックプライドといったことが言われてきましたが、それがうまくいっている事例というのはわずかです。

公務員はお金をもらってまちづくりができます。

一方、市民はお金をもらわず、ボランティアで関わるというのが基本です。

このギャップ、この立場の違いを解消できないと市民主体のまちづくりはできないと思っていました。

そして、市役所を退職して、10年。

市民としてのまちづくりに関わる中でようやくその解が見つかったかなと思っています。

市民主体のまちづくりが失敗してきた原因

これまでの市民主体のまちづくりが失敗してきた原因は1つです。

上からの市民主体だったからではないかと考えています。

これはどういうことかというと、供給側からのニーズだったということです。

学術的に新しい公共といった考え方が導入されたり、財政的に厳しい状況なので、市民を巻き込んだ行政運営が必要だという話からの政策。

シビックプライドを醸成すべきだというべき論。

これからは理想を求める供給者側の論理です。

市民主体だと言いつつも、行政側の論理を押し付けている形だったんですね。

上からの政策だということは、これまでもずっと言われてきました。

しかし、それがどういった構造でだめなのかというのは、あまりしっかり認識されてこなかったのではないでしょうか。

上というのは供給側で、下というのは需要側といった意味なのですが、この上と下というあいまいな言葉遣いのせいで、このミスマッチがどういう意味を表すのかに気づくことができず、長らく迷路の中に入っていたのではないかと思います。

これは、行政研究者は市場を理解せず、市場の理解者は行政側の論理に合わせるので行政関係者も気づかずといった構造的な問題だったのではないでしょうか。

民間側で行政のこういった課題を解決しようと考える人というのが存在しなかったのだなとつくづく思います。

需要と供給側の話ですが、商売で考えてみると、昆虫食が良い例です。

これは、タンパク質も豊富だし、環境にも良いから買ってと言っても、買う人は少ないかと思います。

それは、需要側、買い手側のニーズにマッチしていないからです。

一方で、同じ食べ物でもお米やパンというのは毎日多くの人が購入しています。

この違いは、買い手側のニーズをつかんでいるかどうかということだと思います。

これまでの自治体の手法から見えたこと

では、どうすれば市民がまちづくりに関わるようになるのでしょうか。

これまで行政が考えていたのは大きく2つです。

1つは、お金によって解決すること。

委員会やワークショップのようなものであれば、謝礼を払う。

協働事業であれば委託料や補助金を払うといった方法です。

お金を払うので、継続するにはお金を払い続けることになります。

3年後など、期限を定めて委託や補助金は終了し、自立した形を目指すということを定めている自治体が多いと思いますが、こういった事業はゼロから立ち上げる起業に近いので、フルタイムで時間を投入できる人であればなんとかなるかもしれませんが、土日などでボランティア的に関わる人にとって自立しろというのは非常に厳しい要求かと思います。

もう1つは、強制的に参加させることですね。

これは実現できている自治体はないかと思いますが、行政職員であれば1度は強制的に参加できるような制度にしてしまえば良いのにと思った人もいるのではないでしょうか。

半強制的なものとしては、計画づくりの委員へ組織の役職として参加させる場合でしょうか。

オーストラリアでは投票は義務となっていたりもしますが、そういった義務化するのは手法としては考えられることですが、選択の自由といった点ではちょっと抵抗感がありますね。

その他の方法として、無作為抽出でアンケートやワークショップ参加者を募るという方法もあります。

これは謝礼などは払われませんが、答えたい人だけ答える、参加したい人だけ参加するといった方法で、公募で手上げ方式だといつものメンバーしか参加しないけど、声をかけられれば参加してみようという気持ちになる人は一定程度いるため、新たな層を発掘するという点ではありかと思います。

ただ、その後が続かない。

そのワークショップだけは参加するものの、その後継続してまちづくりに関わり続けてくれる人とまではならないというのが大半ではないでしょうか。

私も職員時代からせっかく関わってくれたのだから、継続して関わり続けてほしいと思っていましたが、結局良い取り組みはできなかったなと思います。

モチベーションマネジメントが必要になってくると思いますが、これは技術のいることなので、異動で担当者が変わってしまう行政ではなかなか厳しいのではないかと思います。

まちづくりのエンターテイメント化

では、どうすれば市民がまちづくりに関わるのか。

それは、まちづくりに関わるという状態を結果にすることだと思います。

〇〇をしていた結果、まちづくりに関わっていたということです。

では、その〇〇とは何か。

私は、それが娯楽(エンターテイメント)だと思います。

今、多くの人の時間は娯楽に消費されています。

Youtubeを見たり、ゲームをしたり、漫画を見たりといったことに対抗できないと、誰もまちづくりに関わろうとは思わないということですね。

もちろん、意識の高い人はまちづくりに関わるべきだということで、関わっていますが、そういう人はごく一部です。

その結果、行政の事業に関わる委員などはいつもの人になってしまっているのだと思います。

こういった考えから、まちづくりをエンターテイメント化して、楽しいから関わっているという人を増やしていければと考えています。

地域の人たちにヒアリングする中で良く聞くのが娯楽がないということです。

娯楽というのは、映画だったり、遊園地だったりということかもしれませんが、そういった既存の娯楽ではなく、新たな娯楽を地域で生み出せないかと考えています。

ビジネスプランコンテストというエンタメコンテンツ

その一つが、ビジネスプランコンテストです。

山梨県都留市で行っている生涯活躍のまち・つるビジネスプランコンテストの実施する目的は、行政の文脈でいうと、シルバー産業を創出し、生涯活躍できる環境を整えるといったところだと思います。

ただ、実施している側からすると、これはエンターテイメントだったんです。

というのも、このコンテスト自体がまるで甲子園のようなドラマがあるからです。

エントリーを勝ち抜いたファイナリスとは、メンターの伴走の下、地域で調査や実証実験を行います。

そういった取り組みを通してブラッシュアップされたプランが最終発表会に持ち込まれ、最優秀賞と決まります。

期間は3か月程度ですが、この間にファイナリストメンバーの葛藤や変化を間近で見ることができるのは、無責任な言い方ではありますが、面白いです。

今年度は、この面白さをもっと多くの人に感じてもらいたいと思い、地域のみなさんにサポーターやコミュニケーターとして関わってもらいました。

これを動画で撮って、編集してドキュメンタリーにできたらさらに面白いんでしょうね。

ビジネスプランコンテストというと、何人の起業家が育ったといった点が成果として評価の対象になりそうですが、エンタメコンテンツとして、まちづくりに関わる人を増やすといった視点での成果というのも考えても良いのではと思いました。
もちろん、関わった人数などを成果指標にしてしまうと、ビジネスプランコンテストの趣旨自体が変わってきてしまうので、そのあたりは配慮しなくてはいけませんが、地域が面白いというコンテンツを増やしていくといった視点は持っていきたいなと思っています。

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