ビジネスまちづくりとは、官民で連携をしながらも、民間の力でビジネスを通して、地域で担い手を生み出し、自立したまちづくりを行っていくことを言います。
地方で前提となっていた行政のお金に依存したまちづくり
もともと、まちづくりというのは、人口が多い地域では民間の力で担われてきました。
東京駅周辺などはその典型で、人が集まるため、地域の価値があがり、再投資を行いといった好循環が生まれている良い例かと思います。
一方で、地方ではそういった循環が継続しているところは少なく、各道府県の県庁所在地においても再投資が進まない地域が多くなっています。
これは、東京一極集中と言われる人がすべて東京に向かっていることが原因の一つです。
これを打開しようと地方創生が2015年から進められて10年が経ちますが、その成果はあまり芳しいものではありません。
それはなぜか。
それは、地方では行政のお金に依存したまちづくりが行われているからです。
駅前や商店街の再開発を行う際には、行政が主導した取り組みであることが少なくありません。
もちろん、ある程度のお金をかけるので、良いものができます。
ただ、それが継続できるかというと、そういう時代ではなくなりました。
というのも、人口が減少する中で、税収も減り、高齢化が進んで福祉に使うお金が増えるため、自由に使えるお金も減っているからです。
民間であれば、一度投資したお金から、利益をあげて、それを再投資します。
しかし、行政の場合は、良いものを作ったとしても、そこから収益をあげるという発想はなく、数年後に再投資しようと思った時の税収に頼るしかありません。
もちろん、公債といって、借金をする方法もありますが、その先の税収も減ることが前提の中で新たな借金をすることも大きな抵抗があるといった状況になります。
継続したまちづくりを行うには、民間ベースのビジネスを基本としたものにする必要があるのではないでしょうか。
まちづくりは公共が担うものという前提をどうするか
ただ、まちづくりはその地域全体に関わることです。
そのため、地域の住民の意見を聞いた上で進める必要があります。
そういう点で、行政が担うというのは正解かと思います。
法律や条例で定められた仕組みの下で行うことは、公共性、公平性という観点でベストです。
ただ、意見を聞く主体と実行する主体は必ずしも一致している必要はないのではないでしょうか。
また、行政でも実施の際にはある程度意見を絞った形での実行となるため、全員が満足したものを実現することは不可能です。
効率性の面でも民間が担ったほうが良いという声が聞かれるようになり、協働、PPP、PFIといった言葉が出てきたのはみなさんご存知のとおりです。
官民連携で担う自治体の役割とは
とは言っても、地方で投資をするにはリスクが大きく、民間が自主的に投資をする流れというのはなかなか作りにくいのが実際です。
そのため、官民連携で取り組むことがベストだと思います。
その際に、行政が担うべきことはなにか。
それは、信用の付与と広報での協力だと考えています。
何事も民間が行うとなると、利益を追求するためのもの、儲かったらそれで良いものといった認識をされがちです。
そこに、行政が関わることで、公共性を持たせて、地域のための取り組みであるという市民の理解を得ることができるようになると思います。
この部分を私は信用の付与と言っています。
行政だから信用がおけるもの、民間だから信用がおけないものというのではなく、地域の公共性を得られているかどうかという点がポイントかと思います。
もう1つは、広報です。
自治体のホームページには一定のアクセス数がありますし、定期的に出している広報誌も一定数の人が見ています。
もちろん、行政職員からすると、リーチできる層は限りがあって、見ていない人が多いという印象かとは思いますが、広報に掲載されたということで、公的な意味が出てくるため、そういった点でも大きな力になります。
また、見ていない人も多いとはいえ、一定の層にはしっかりと読まれているもので、特に地域に関心の高い層への効果が高いと思います。
その点でも地域の反応を見る上で一つの指標としてとらえられると思います。
私がこの2つを挙げているのは、どちらも行政にとって取り組みやすいことだということもあります。
広報は定期的に出すものですし、信用の付与についても予算的なものは必要なく、一緒に取り組んでいるということを明らかにするだけです。
行政にとっては、新たな予算を確保するということが大きなハードルで、そこは頼らないというのが基本的なスタンスかと思います。
民間のプロダクト開発に付き合うという観点だと、段階的に変わる行政の役割
とは言っても、投資をするにはお金が必要だということで、地方交付金のようなお金が意識の高い自治体には交付される仕組みになっています。
しかし、それも3年や5年といった時限的な措置になっています。
その期間が終わったら自立するというのが前提の仕組みです。
地方創生に取り組む日本のすべての自治体職員がこのことで頭を悩ませているのではないでしょうか。
行政は民間のサービスがどの段階にあるかでその役割が変化すると考えています。
プロダクト開発の初期の段階は、開発から行うのでコストが高く、一方で日本初といった取り組みになるものです。
第2段階は、1地域で成功したので、他の地域に展開しようというものです。
ITの関係のサービスは特にそうかと思いますが、1度開発してしまえば、横展開する際も同じものをコピーするだけなので、コストが低くなるといった段階のものですね。
この段階でも一定程度のコストはかかり、それなりのものになると思います。
第3段階として、低コスト化がある程度実現すると、行政負担から利用者負担にしていくといった形になっていきます。
実は、この第3段階を考えている民間が少なすぎます。
民間としては行政からお金がもらえた時点でマネタイズができているので成功であって、それを横展開して収益があげられれば再投資ができるので問題ありません。
しかし、行政としてはそのサービスを継続することを目指しているので、行政の負担がゼロになってもサービスが継続できる仕組みを期待しています。
もちろんそれを民間も理解はしているので、ITサービスに限らず、コミュニティづくりなどもそうですが、行政の支援が終わった後は自立したそのコミュニティが自立して機能するように考えていますという会社がほとんどですが、それが実現できるところはほとんどありません。
そして、3年も経つと当初の担当者は異動していますので、行政側でもサービスの継続にコミットしようという意識が薄れていて、そのままになってしまいます。
そして、この状態が地域に再投資が続かない根本の原因です。
行政が投資をしてサービスがスタートしても、行政の支援が終わった瞬間にサービスが停止するので、その後に何も残らないからですね。
3年で自立するための仕組みとは
せっかく地域に投資をするのであれば、そこから出た富で再投資ができる状況をつくる。
それが地域を継続させる仕組みであり、それを実現するのがビジネスまちづくりです。
では、具体的にどうするのか。
それは、構想段階から自立したビジネスモデルを考えておくことが1つです。
今、民間から行政に提案されるサービスのほぼすべてが、住民サービスの向上に資するものになっています。
しかし、住民サービスの向上をする資金の担い手を行政としかとらえておらず、その後のことを考えた提案は皆無です。
たとえば、以前子育て世代を移住させるために子育て支援住宅を提供しましょうというサービスを見たことがあります。
これは、行政が住宅建設を支援して、安い価格で提供するので、子育て世代が来るといった構図でした。
建設コストを行政が支援するので、その後も安い価格で子育て世代は住み続けられるというメリットがあります。
この問題は2点です。
1つは、子育て世代が価格という安さで呼び込まれているだけなので、他の地域が同様の取り組みを行ったら意味がないということです。
これは、昨今の子育て施策として医療費、給食費の無償化が広がっている減少も同じかと思います。
もちろん、国全体として子育て支援を行うという機運を高める上で非常にすばらしい取り組みかとは思いますが、お金での勝負は結局豊かな地域が買ってしまうので、お金のある東京都が勝ちます。
もう1つは、子育て世代が移住した後の再投資が考えられていないことです。
これで収益を得られた建設会社はそれで終わりで、地域へ何を還元するかという縛りはありません。
また、子育て世代は低価格で暮らした後は地域へなにかを還元する必要もありません。
このあたりの仕組みが考えられているかどうか、むしろこのあたりを考えなくてはいけない時代がこれから来ると考えています。
残念ながら民間からすると、そういった後のことを考えれば考えるほど収益性が悪くなります。
しかし、そこに取り組むことこそが、SDGsのゴール11にあるような住み続けられるまちづくりになるのではないかと思います。
眼の前の収益を追うだけでない、将来を見据えたまちづくり。
言うのは簡単で、誰もが言っていることだとは思いますが、それを具体化するには覚悟とノウハウが必要です。
そんな取り組みを強烈に進めていきたいと思います。
そうすると、日本が変わるのではないでしょうか。