まちづくり

まちづくり分野の価格上昇という未来 -ボランティアまちづくりは続くのか-

ここ数年、物価が上がっているということが言われています。

最初のうちは、円安、コロナといった要因でしたが、私は米をはじめとした農産物の価格上昇の局面に来て、少し原因が変わったのではないかと考えています。

というのも、地方の農業の状況を見ていて、ようやくこの時が来たかといった印象だからです。

これは、何かというと、生きがい農業の終焉ということです。

生きがい農業の発生と終焉の歴史

これは少し長い目で農業を見る必要があるのですが、戦後、高度成長に伴って、都市部への出稼ぎが増えることに端を発します。

それまでは地方で農業を中心として生活していた一家が、製造業、サービス業の担い手を排出しはじめるといった状況です。

このときは、長男が農地を継ぎ、継続して農業を行っていました。

問題は、その長男が引退をした後です。

当時、農業は儲からないから他の仕事をしろという風潮があり、農家の多くは子どもを就職させていました。

そのため、親が農業を辞めた後は、子どもは仕事を辞めて農業を行うのではなく、土日などの時間を使って育てるということをやっていました。

これは自分たちが食べるためにも消費されていますが、量としてはそれなりになるので、食べきれない分は農協に出すなど、販売します。

生活には困っていないので、買取価格もあまり気にしません。

特にポイントとなったのは、自身の労働力を販売価格に転嫁しようとしなかったことかと思います。

そのまま、その人も退職し、仕事がないので、農業をやろうということになります。

しかし、収入的には年金があるので困っておらず、収入を得るための手段ではなく、健康維持の手段として農業が継続されます。

その結果、販売には無頓着で赤字にならなければ良い程度の価格での販売が続きます。

さらに年齢を重ねていくと、健康維持のためにやっているから、赤字でも良いといった作業になってきます。

その結果、消費者には安い価格で提供されますが、農業は生業としてやっていくには厳しいという環境が生まれます。

そして、団塊の世代が75歳以上を迎えた現在、そういった健康維持を目的とした生きがい農業、ボランティア農家が1軒、また1軒となくなっています。

そういった労働力に頼っていた農協は仕入先がなくなり、需要に供給が追いつかず、価格に転嫁せざるを得なくなったという状況ではないかと考えています。

まちづくりのボランティアは継続するのか

このボランティアに頼っていたけど、その担い手がいなくなったという状況は何かに似ていないでしょうか。

はい。まちづくりです。

自治会はもちろん、NPOもボランティアで運営しているところがほとんどです。

そして、担い手の多くは高齢者というのも同様の状況かと思います。

自治会の加入率は低迷を続け、NPOも世代交代が進みません。

それは、収入につながらないからです。

自分たちの生活が厳しく、余裕がない中で、収入につながらない仕事をしている余裕がない人が増えているということかと思います。

もちろん、仕事よりもやりがい、というのももう1つのトレンドとしてはあります。

ただ、その中で大変なのが、自己実現をするための手段が世の中にあふれていて、まちづくり分野が選択されないといった可能性が高いことです。

しかも、最近は仕事の中で自己実現ができるようにと企業もシフトしてきていて、仕事が充実していく中で従来のまちづくりに目を向ける人を確保するというのは、難しいのではないかと考えています。

そういった未来に対して、私たちが選択できるのは2つかと思います。

1つは、まちづくりの価格転嫁です。

これまでボランティアとして担ってきたことを有償にしていくということですね。

すでに謝金的なものが支払われているところは出ていますが、それが仕事化していくというのがあると思います。

マンションの管理組合は仕事化している事例で、戸建て住宅や戸数の少ない集合住宅を抱える自治会においてもこういった形がスタンダードになっていくと思います。

もう1つは、まちづくりの意味づけの変更です。

ずっと言っていることですが、まちづくりのエンターテイメント化になります。

まちづくりのエンターテイメント化における3つの壁

まちづくりが自己実現の1つとして選ばれるだけでなく、ストレス解消、リラックスの場として活用されるようなコンバージョンが必要です。

その際に立ちはだかる壁というのも見えています。

1つは、従来のやらされ仕事をどうエンターテイメントにするかということです。

地域清掃や回覧板を回すこと、会計の事務といったことを楽しいと思ってもらう必要があります。

これは、その地域にそういった活動をやってみたい、そういったスキルを身に着けたいという人がいればラッキーですが、そうでない地域が多いと思いますので、工夫が必要です。

たとえばですが、ゴミ拾い大会としてゴミを多く拾った人が勝ちという競争を持ち出してみる。

といった方法もあるかもしれません。

2つ目は、ボランティアで担われてきたことによる非効率性です。

毎年役員が変わることもあって、業務内容の大きな変更が難しかったり、変更してもスキル的に担えなかったりといった状況が発生するため、誰でもできる形からの変更が取りにくい状況です。

そのため、たとえば会計は多くの場合が手作業で担われていて、現金でのやりとりで、といった形となります。

会計ソフトをいれる、paypayでの支払いにするといったことがしにくいんですね。

回覧板もLINEでといったこともなかなか難しいかと思います。

一度移行してしまえば、そうした方が楽なのにということも、個人情報などいろいろな状況からみんなに合わせようとすると最小公約数の誰でもできる内容になってしまいます。

結果、しっかりと担おうとする最初は取り組むべき内容が多く、仕組みづくりに多くの手間が割かれると思います。

最も大きな問題は3つ目で、地域という縛りがあることです。

たとえば、趣味のサークルであれば、スポーツ、芸術、文化など、自分が関心と近い人たちが集まるグループになりますが、地域の場合は、同じ地域に住んでいるだけで、趣味嗜好はバラバラな人たちの集まりです。

年代もバラバラで、そういった人たちがコミュニケーションをすることには大きなハードルがあります。

年功序列でずっと住んでいる人や過去の歴史を尊重すべきといった傾向があることも課題です。

最近は外国人の人も増えているため、地域によっては言語の壁も超える必要があると思います

つまり、多世代コミュニケーションの困難性、地域の歴史風習、人材の多様化といった3つが存在するということです。

同時にすべてを解決はできないので、1つ1つ時間をかけてハードルを下げていくことになるか、これらが発生しないようなまちづくりをしていくかということかと思います。

これらの問題はハードルとしては高いですが、決して解決できない問題ではありません。

また、これまで担ってきた高齢世代が引退するのを好機ととらえて、新たなスタートをきるエリアも出てくるでしょう。

これからのまちづくりはこのあたりを予測した上で進めていく必要があると思いますし、すでに発生しつつある地域への対応というものも並行して進めていくことが求められています。

しかし、それをボランティアが担うのか。

日本全域でそういった形に持っていくのはなかなか難しい気がします。

新たなビジネスチャンスとなるのか、どうにかなるのか、今後が楽しみですね。

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