まちづくり

公営住宅の空室が満室に|移住者が移住者を呼ぶ団地再生の成功事例【長野県佐久市】

空室が続いた市営住宅を再生した「ホシノマチ団地」

長野県佐久市臼田地区に位置する「ホシノマチ団地」は、築約30年を迎え、5年以上新規入居者がなく、空室が目立っていた市営住宅(下越団地B棟)を再生したプロジェクトです。

この団地は、佐久圏域外からの移住者専用住宅として生まれ変わり、21室が満室となり、入居待機者が出るという状況になっています。

このプロジェクトの成功の鍵は、移住者の「住まい、仕事、コミュニティ」という三大不安要素を徹底的に解消し、さらに移住者を「サービスの受け手」ではなく「地域の担い手」とする仕組みを構築した点にあります。

その結果、移住者が地域で活躍し、その姿が新たな移住希望者を呼ぶという好循環(移住者が移住者を呼ぶ仕組み)となっています。

特に注目すべきは、この事業運営が公的資金(自治体の補助金や指定管理料)に頼らず、家賃収入と事業活動によって自立運営を実現していることです。

これにより、佐久市は指定管理料の支払いが不要となり、逆に土地・建物の使用料収入を得られるようになりました。

今回は、国土交通省の「地域価値を共創する不動産業アワード」で優秀賞(団地活性化)を、「まちづくりアワード」で特別賞を受賞した、持続可能なコミュニティ再生モデルの具体的な取り組み概要を紹介します。

ホシノマチ団地とは?|移住者専用の公営住宅再生事例(長野県佐久市)

ホシノマチ団地は、長野県佐久市臼田地区に位置し、佐久圏域外からの移住者のみを対象とした賃貸住宅です。

団地の背景と行政的位置づけ|遊休公営住宅と生涯活躍のまち事業

ホシノマチ団地の前身は、1996年に建設された佐久市営下越団地B棟(中堅所得者向けの特定公共賃貸住宅)です。

同様の建物のA棟は所得制限があり家賃が安いためほぼ満室でしたが、B棟は割高感があり、5年以上新規入居者がいない状態が続き、24室中16室が空室という状況でした。

この遊休化した市営住宅の活用は、佐久市が推進する「生涯活躍のまち事業」の一環として位置づけられました。

この事業は、「第二次佐久市総合計画」や「世界最高健康都市構想」などの上位計画に基づき、地域再生計画として定められた5つの主な取り組み(市営住宅の有効活用、移住者の活躍の場の創出と市民活動の交流など)の一つとして、2018年に公募型プロポーザルにより事業化されました。

ホシノマチ団地という名前は、佐久市と合併前の旧臼田町が「ほしのまち臼田」とシティープロモーションを行っていたことにちなんでいます。

また、東京では見えない星も佐久市では輝いて見えるように、人材も佐久市で輝いていただきたいという想いが込められています。団地の壁面にはいて座やこぐま座のモチーフが彫刻されています。

コンセプトと住まいの特徴|「仕事」を軸にした移住者向け団地設計

ホシノマチ団地のコンセプトは、「シェアオフィス型多世代住宅(テーマ:仕事)」です。これは、移住して終わりではなく、移住後に充実した活動を行うことで、移住者が移住者を呼ぶ仕組みをつくる、というテーマが込められています。

居室と「稼ぐ部屋」

団地の居室は1LDK(54㎡)と3DK(71㎡)の2タイプがあり広々としています。

この広さを活かし、各居室の1~2部屋をオフィスや民泊用として「稼ぐ部屋」と位置づけ、入居者が自身のやりたいことを実施できる場としています。

これは、居室それぞれがオフィスとして機能する「働くでつながる団地」であり、職住近接を実現しています。

家賃は地域内では高い水準ですが、東京と比べれば安価であり、リモートワークを行う首都圏の収入を持つ層にとって魅力的です。

立地とカーシェア

団地は北陸新幹線停車駅の佐久平駅から小海線で約25分のJR臼田駅から徒歩約7分(約550m)です。

半径500m圏内には、長野県内で充実したスーパーとして知られるTSURUYA、佐久総合病院、コンビニ、公民館など、生活利便施設が揃っています。

さらに、移住の不安要素である移動手段の課題を解消するため、無料のカーシェア(ガソリン代も運営負担)が1台導入されています。

セルフリノベーションと高齢者対応

1、2階の一部(8室)を除き、退去時の原状回復が不要なため、入居者は住みながらセルフリノベーションが可能です。

また、1、2階の8室はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の登録基準を満たすようリノベーションされており、50歳以上で入居する場合、安否確認と生活相談のサービス(別途サービス費が必要)を受けることができます。

これは、入居に応じていつでもサ高住として転用可能な状態であり、将来的に終の住処とすることも可能な安心感を提供しています。

単なる移住ではない|移住者が定着・活躍する団地コミュニティの仕組み

ホシノマチ団地が単なる移住者向け住宅ではなく、移住者が地域で活躍し、定着するための「共同体」として機能しているのは、「仕事」と「コミュニティ」に関する独自の設計思想に基づいています。

仕事と学習の場「shoku_ba」|移住者の仕事不安を解消する仕組み

団地の集会所を活用して整備された「地域交流拠点 shoku_ba」は、移住者の「仕事」に関する不安を解消する核となる場所です。

ホシノマチオフィス

団地住民は、shoku_ba内の「ホシノマチオフィス」(シェアオフィス)の機能を24時間無料で利用できます。

Wi-Fi、プリンター、個室ブース、会議室などが完備されており、リモートワークや副業の環境が整っています。

住民以外も有料で利用できるため、地域住民との交流も促進されます。

サービスの担い手への転換と仕事化

運営方針として、住民が単にサービスの受け手になるのではなく、「担い手になるサポート」を掲げています。

実施される活動やサービスは、可能な限り入居者が稼げる機会として「仕事化」を図ることを基本としています。

起業・就労支援

団地スタッフは、入居者の持つ能力を活かした地域活動支援や起業支援を行い、地域の信用がまだない移住者と地域との橋渡し役を担います。

また、地域で声がかかる求人情報や地域活動への参加の場を提供することで、入居者の希望する仕事や活動とのマッチングを行います。

団地のスタッフとしてはもちろん、デザイナー、シェア農園スタートメンバー、地域おこし協力隊など、「仕事と移住をセット」にした募集も実施しました。

実際に、団地内では佐久エリアへの移住希望者を対象とした不動産会社であるホシノマチ不動産が立ち上がり、移住希望者の住まい探しをサポートしています。

365日常駐スタッフによる支援|移住者と地域をつなぐ運営体制

移住者にとって「地域コミュニティになじめるか」という不安は大きいですが、ホシノマチ団地ではスタッフが365日常駐することで、この不安を解消しています。

スタッフの役割は、サ高住利用者への安否確認・生活相談、シェアオフィスの総合受付機能、そして最も重要なのが「地域連携サポート」です。スタッフは、入居者と地域をつなぐ役割を担い、仕事やボランティアの紹介など、移住者が活躍できる場を見つけるサポートを行います。

また、団地全体が移住者だけの住宅である点も、コミュニティ形成における安心感につながっています。

団地再生が生む成果|高い定住率と行政・地域への波及効果

ホシノマチ団地事業は、遊休公営住宅の再生という行政課題を解決するだけでなく、地域に高い定住率と経済的な波及効果をもたらしています。

移住者数・定住率から見るホシノマチ団地の実績

事業開始前、5年以上新規入居者がいなかった団地B棟(16室)は、2023年5月に満室となり、入居待機者がいる状態となりました。

この成功を受け、2024年4月には特定公共賃貸住宅の空室5室が追加で運営に加わり、合計21室体制となりましたが、同年11月には再び満室を達成しています。

移住者の実績も非常に高く、令和3年3月から令和7年3月時点の移住者合計は35組、89人(移住後の出産2人を含む)に上り、そのうち佐久市への定住者は27組72人(80.9%)という極めて高い定住率を誇っています。長野県内への定住率は88.8%以上です。

移住元は東京からの移住が13組で最も多く、佐久市への移住希望ではなく、ホシノマチ団地のコンセプトや魅力に惹かれて移住を決めた層が多いのが特徴です。

また、2022年3月に退去した3組はすべて佐久市内の別の住宅へ転居しており、ホシノマチ団地が移住希望者の「入門住宅」として機能し、地域活性化の輪を広げていることが示されています。

指定管理料に頼らない公営住宅運営と経済効果

ホシノマチ団地モデルは、公的資金に頼らず収益を上げ、行政にメリットをもたらす持続可能な事業スキームを確立しました。

行政収支の改善

従来の住宅供給公社による指定管理方式では、佐久市が指定管理料を支払う必要がありましたが、新スキームでは、運営主体である共同企業体が佐久市に土地・建物の使用料を支払うため、佐久市は指定管理料の支払いが不要となり、逆に収入を得ています。

地域コミュニティの活性化

3年間で住民主体のイベントは81回開催され、延べ1,000人以上が参加しました。

使われていなかった集会所には人が集まるようになり、地域の活気が戻っています。

地元の自治会長は、団地が満室になったことで治安への不安が解消され、公園で子どもが遊ぶ姿が見られるようになったと評価されいます。

地域経済への貢献

近隣住民からは、移住者が耕作放棄地を農地として活用してくれて助かるとの声が寄せられています。

経済団体からは、外部からの視点や地元にないスキルを持つ人材が地域に来ることで、良い刺激となっているとの評価を得ています。

さらに、移住者やプロボノ等のメンバーによって立ち上げられた一般社団法人チームホシノマチは、栽培をやめたプルーン畑を引き継ぎ、生産したプルーンをふるさと納税の返礼品として出品するなど、地域経済に貢献しています。

他自治体への示唆|公営住宅再生モデルは全国で展開可能か

ホシノマチ団地モデルは、全国の自治体が抱える「遊休公営住宅の活用」や「人口減少」といった課題解決につながると考えています。

「佐久市内経済循環」を目指す移住×仕事の戦略

私たちは、佐久市全体でお金と仕事が循環する「佐久市内経済循環」の構築を目指しています。これは以下の3ステップで実現を図ります。

  1. 人の獲得(実現済み) ホシノマチ団地のようなコンセプトに共鳴する移住者を促し、オンラインを活用して関係人口を増やす。
  2. 仕事の獲得(実施中) 首都圏企業や他の地域の企業が担っている仕事を佐久市内で実施し、雇用を創出する。具体的な例として、ふるさと納税事業、地域電力会社事業、廃校や温泉施設の活用、インバウンド事業などが挙げられています。
  3. ビジネス創出による外貨獲得(実施中) 佐久市内で成功したビジネスを佐久ブランド、ジャパンブランドとして、全国や世界へ展開する。たとえば、ふるさと納税の中間管理事業や地域内電力会社などを担うことで外部に出ているお金を市内に留めることを目指しています。

官民連携による公営住宅活用の役割分担

このモデルが持続可能となった背景には、行政(佐久市)と民間(共同企業体)の適切な役割分担があると考えています。

行政の役割

遊休施設の提供、地域の情報提供、広報協力、そして行政ニーズ(生涯活躍のまち)への適合。初期の調査費用やリノベーション費用、住宅賃料の減免など、初期投資の支援も自治体の重要な役割だと考えています。

民間の役割

管理運営、コンセプトや家賃、管理体制の決定。これにより、民間の主体性が尊重され、社会状況の変化にも柔軟に対応できました。ホシノマチ団地については、調査段階から運営を想定した人材が関与したことも大きいと考えています。

行政は「税金を使う施設」から「税収が入る施設」への転換を実現し、民間は自立運営と地域貢献を両立しています。

立地条件に依存しない団地再生モデルの可能性

視察などを受ける中で、佐久市という立地や長野県という移住希望者が多いことがうまくいっている理由ではないかと言われることがあります。

私は、どういった環境でも移住をしたいという人はいると考えています。

しかし、地域になじるかが不安で移住に踏み切れない。その不安を解消する本事業はどのような地域でも実現可能なのではないかと考えています。

今後は、ホシノマチ団地での成功ノウハウを同様の課題を抱える他の地域に展開することを目指しています。

ホシノマチ団地は団地だけの取り組みではありません。

移住に関するワンストップ窓口としての役割を担い、移住体験住宅の運営を通じて交流人口を拡大し、スムーズな移住への移行をサポートします。

また、住民の主体性を引き出すノウハウを活用し、地域での活動が盛り上がる。そんな地域を増やしていきたいと考えています。

公営住宅を「コスト」から「地域を動かす資産」へ

ホシノマチ団地は、遊休化した公営住宅という「負の資産」を、移住者という「プレイヤー」を誘致し、彼らの持つスキルを「仕事・活動」として地域に還元することで、持続可能な「好循環」を生み出す事業です。

移住希望者が抱える「住まい、仕事、コミュニティ」の不安を包括的に解消する「パッケージ」を提供し、入居者を単なる居住者ではなく、地域課題の解決をする担い手へと転換しました。

この経験をもとに、今後は移住者が地域で輝く「活躍の場」を生み出し、その輝きが地域の魅力になる。そのような地域を増やしていきたいと考えています。

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