私は、まちづくりをビジネスとして推進することが大切だと考えています。
私のいうビジネスというのは、お金によって継続する仕組みのことです。
これまでも行政の補助金などによって、まちづくりは行われてきましたが、税金に頼っていて、税金がなくなったら終わりという性質のものでした。
簡単に一言でまとめれば、「これまでのまちづくりは単年度補助かボランティアで、継続できないのが当たり前だった」ということかと思います。
もちろん、行政はモデル事業を実施するという性質もあるので、モデル事業を実施して、その経験を活かして民間事業が成長していくといった部分もありました。
しかし、最近は税収減でお金の用途が限られる中で成果が求められるようになり、やりっぱなしでは満足できない状況になっていると考えています。
せっかく実施するのであれば、ビジネスとして継続するものとして実施する。
それを私はビジネスまちづくりと呼んでいます。
最近は、行政からは補助金がなくなった後はどうしますかという質問は必ずされますが、補助金を受ける側はその後も継続する仕組みを作りますということは必ず言います。
しかし、続きません。
それはなぜか。
この記事では、「なぜこれまでビジネスまちづくりという感覚が出てこなかったのか」、そして「なぜ今、その必要性が出てきているのか」を整理するとともに、これまでのまちづくりの性質と継続するための工夫についてご紹介します。
従来のまちづくりは“委託”と“ボランティア”の世界だった
これまでの行政のまちづくり事業を振り返ると、基本的には「委託事業」と「ボランティア活動」で成り立っていました。
委託事業は単年度で終わるのが前提
行政予算は単年度主義で組まれるため、1年ごとに予算が確定し、事業もそれに合わせて実施されます。
結果として「今年の委託は今年で終わり」という意識が強くなり、継続性が軽視されてきました。
継続の意識が薄い
モデル事業として「まずは試してみる」ことが優先され、長期的な展開や収益化の視点が入りづらかったのです。
ボランティアに依存
地域活動や住民協働といえば、熱意ある住民や団体によるボランティアで支えられるのが当たり前でした。
行政も「住民主体の活動だから、そこはボランティアで」という考え方が強く残っていました。
例えば、夏祭りや地域清掃といったイベントは、予算がなくても「住民の善意」で回ってきました。ところが、人口減少で担い手が減り、ボランティア任せでは限界が見えてきています。
時代の変化:人口減少と財政難が突きつけた課題
ところが、ここ10〜20年で状況は大きく変わりました。
人口減少が急速に進行
全国の自治体で人口が減り続けています。特に地方部では若者の流出が止まらず、高齢化も同時に進行。
これまでのように「イベントで賑わったからよし」とは言えなくなりました。
自治体の財政難
税収は減少し、国からの交付金も限られてきています。
「今年も予算が取れたから続けられる」という保証がどんどん難しくなっています。
効果と持続性が求められるようになった
国や議会、住民からも「費用対効果はどうなのか?」「来年度以降はどう続けるのか?」と厳しく問われる時代になりました。
例えば、指定管理制度では、従来は指定管理料の範囲内で「運営していれば良い」とされてきました。
しかし、最近では「来場者数」「地域経済への波及効果」といった成果を求められるようになっています。
指定管理者も単なる受託業務ではなく、ビジネス感覚を持った経営が必要とされています。
民間の不動産事業は昔から存在したが…
一方で、「まちづくり」と言えば、昔から民間の不動産事業がありました。
大型の商業施設開発や住宅開発などは、確かに「まちをつくる」取り組みです。
しかしそれは、
- 人口増加が見込まれる都市部
- 経済成長が期待できるエリア
といった将来的に不動産価値が上昇する地域に限られていました。
要するに、将来の収益が見込める場所にしか民間は投資しなかったのです。
たとえば、首都圏や政令市では大規模な再開発が進められますが、人口減少が激しい町村部では新規開発の話はまず出てきません。
地方の空き家問題はまさにその裏返しで、収益の見込みが薄いため、民間はなかなか手を出せなかったのです。
なぜ今、「ビジネスまちづくり」なのか
では、なぜ近年になって「ビジネスまちづくり」が受け入れられるようになったのでしょうか。
大きな背景は次の3つです。
1.社会的インパクトの重視
収益性だけではなく、「地域課題を解決する」「地域を持続させる」といった社会的な意義が評価されるようになってきた。
2.ボランティアの限界
かつては志ある人が「本業で収入を得ながら、余暇でボランティアとしてまちづくり」を担ってきました。
しかし人口減少や働き方の変化により、純粋なボランティアだけでは成り立たなくなってきています。
3.継続のためには収益が必要
「収益性はあまり高くなくても、ゼロでは続かない」。その現実が広く共有されるようになりました。
結果として、「まちづくりを本業として担う」という新しいスタンスが生まれつつあるのです。
典型的なのが「空き家再生ビジネス」です。これまでボランティアで草刈りや掃除をしていたものを、リノベーションして宿泊施設やコワーキングスペースに転用し、利用料で継続するモデルが各地に出てきています。
行政が単年度補助でやっていたことを、民間がビジネスとして持続させる事例が増えてきました。
行政事業の中でのまちづくりと福祉の違い
ここで注意すべきは、まちづくり分野は医療や介護などの福祉分野と異なり、国から安定的な補助金が入る仕組みがないという点です。
医療や介護:国の制度に基づいて診療報酬や介護報酬が支払われる
まちづくり:制度的な裏付けがなく、弱者救済という性格も薄い
そのため、安易に補助金を入れると「やりがい搾取」に陥りやすくなります。
やりたい人だけが低賃金で働き、結局続かない。
そんな危険性をはらんでいます。
例えば、地域おこし協力隊の事例では、任期中は国からの財源で活動できても、任期後に収益がなければ続きません。
補助金だけに依存すると、3年で終わる「人材の使い捨て」にもなりかねません。
だからこそ、収益性をどう確保するかがまちづくり分野における最大のテーマとなるのです。
今後はビジネスまちづくりの大企業が生まれてくる
現時点では、「地方創生・まちづくりで大きな利益を上げている企業」はまだ多くありません。
ただし、次のような流れは確実に進んでいます。
- 小さな取り組みを束ねて規模を拡大する
- 不動産や観光、地域資源を組み合わせて新しい事業を生み出す
- 社会的意義と収益性を両立させる
例えば、山梨県ではワイナリーや農業と観光を組み合わせた「ワインツーリズム」を展開し、地域に雇用を生み出す動きがあります。
また、熱海では団体客向けの旅館を個人向けにシフトして再生し、地元経済を循環させている事例も出ています。
今後は、この分野で持続可能なビジネスモデルを確立し、大きな企業やプレイヤーが育っていくことになるのではないかと考えています。
過渡期を乗り越える考え方:ワークライフブレンド
では、まだ「収益が十分でない」今の過渡期をどう乗り越えればよいのでしょうか。
私は山口周さんがおっしゃっている「ワークライフブレンド」という考え方が有効だと思います。
- 仕事と生活を切り分けない
- 仕事を生活の一部と考え、やりたいこと・楽しいことを仕事にする。
- 好きなことを仕事にする
- 「嫌なことを我慢して、その対価としてお金を得る」から、「好きなことをして、結果として収入を得る」へ。
- 副業・複業を取り入れる
地方は人材不足です。都市部で当たり前のスキルや経験でも、地方では重宝され、収入につながります。
副業や複業を活用すれば、1つの事業での収益性が低くても全体として生活を成り立たせることができます。
実際に、デザインや広報、ITに詳しい移住者が、副業として地域の中小企業や自治体の案件を手掛け、収入を得ながらまちづくり活動を続けている事例があります。これも「ワークライフブレンド」の一例です。
官民連携のあり方としてのビジネスまちづくり
「ビジネスまちづくり」という感覚が出てこなかったのは、これまでの行政事業の仕組みとボランティア依存の文化が背景にありました。
しかし今は、人口減少と財政難という大きな環境変化の中で、まちづくりにも「効果」と「持続性」が強く求められる時代です。
そのためには、従来の「委託かボランティアか」という二項対立を超えて、ビジネスとして持続可能にする視点が不可欠です。
行政職員の皆さんにとっても、これは決して「民間に任せればいい」という話ではありません。
むしろ、行政こそがこの変化を理解し、支援の仕組みや制度の在り方を考えていく必要があります。
これからのまちづくりは、行政と民間、そして住民が「持続可能性」を共有しながら取り組んでいくものです。
「ビジネスまちづくり」という言葉は、勝手に作った言葉ではありますが、官民連携の一つの目指すべきあり方としては考えられるのではないかと思っています。