こちらをご覧いただいている方は、
- まちづくりを仕事にしたい
- 補助金や単年度委託ではなく、腰を据えて地域に関わりたい
と考えている方も多いのではないでしょうか。
一方で、
- 指定管理者って、行政の下請けでは?
- 大きな会社じゃないと無理なのでは?
そんな感覚をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
指定管理者制度は使い方を間違えると行政依存の制度になります。
しかし逆に言えば、正しく理解し、戦略的に向き合えば、まちづくりを継続可能な仕事に変える数少ない制度でもあります。
本記事では、指定管理者制度の基本的な仕組みだけでなく、まちづくり団体や民間事業者が「担う側」として関わる際に
押さえておくべき視点や覚悟について解説します。
指定管理者制度とは何か
指定管理者制度とは、「公の施設」の管理・運営にあたって、民間事業者やNPOなどが持つノウハウや柔軟性を活かし、多様化・高度化する住民ニーズに、より効果的かつ効率的に対応していくための制度です。
地方自治法第244条の2に基づき、2003年(平成15年)に導入されたこの制度は、従来の行政主導による公共施設運営から一歩踏み出し、「公共施設をどう活かすか」を自治体と民間等が協働で考えることが可能となりました。
指定管理者制度の特徴は、単に業務を外部に委ねるのではなく、施設運営の主体を一定期間、指定管理者に委ねる点にあります。
これにより、施設の管理、事業企画、利用促進、サービス改善などを一体的に行うことが可能となりました。
指定管理には、特に重要な3つのポイントがあります。
1つ目は、民間事業者も含む「法人その他の団体」を指定できる点です。
株式会社やNPO法人、一般社団法人、協同組合など、多様な主体が正式に公共施設運営の担い手となることができます。
2つ目は、指定管理者自身が施設使用の許可処分を行える点です。
これは単なる作業委託とは決定的に異なり、現場判断のスピードや柔軟性を高めることができるようになっています。
3つ目は、地方公共団体に広い運用裁量が認められている点です。
たとえば、複数施設を一括して指定したり、地域特性に応じた独自制度設計を行うことが可能になっています。
ちなみに、指定管理者制度以前は、「自治体直営」または「管理委託制度」で、管理委託の場合も行政の外郭団体や第三セクターなど、実質的に公的主体のみが運営可能でした。
指定管理者制度の基本的な仕組み
指定管理者制度の運用において、まず押さえておくべき点は、複数年契約が前提であることが多いことです。
多くの場合、指定期間は3〜5年間とされ、単年度ごとの委託とは異なり、中期的な視点での運営が可能となります。
また、この制度の特徴として、地方公共団体が独自に制度設計を行える点が挙げられます。
指定管理者の募集・選定方法、業務範囲、管理基準などは、各自治体の条例によって定められ、地域特性や施設の性格に応じた設計が可能です。
指定管理者は、「法人その他の団体」の中から、議会の議決を経て正式に指定され、公の施設の管理を代行する立場となります。
重要なのは、これは単なる業務代行ではなく、主体的な管理運営が認められている点です。
実際には、以下のようなマッチングも制度上可能です。
-
体育館を、健康づくりや会員管理ノウハウを持つフィットネスクラブ事業者が運営
-
図書館を、出版や書籍流通に強みを持つ民間企業が運営
-
文化センター・美術館・博物館を、観光関連会社が一体的に運営
自治体は条例により、
-
指定管理者を選定するための「指定の手続」
-
指定管理者に行わせる「業務の範囲」
-
指定管理者の活動指針となる「管理の基準」を定め、制度の骨格をつくります。
つまり指定管理者制度というのは、自治体が「全部決める」制度ではなく、「どう任せるか」を設計する制度になります。
指定管理者制度で何が変わったのか
指定管理者制度は、単に「公共施設の運営を民間に任せる制度」ではありません。
それ以前の直営・管理委託制度と比べると、自治体と事業者の関係性そのものを大きく変えた制度だと言えます。
直営との違い(自治体運営との比較)
意思決定スピードの違い
自治体が直営で施設を運営する場合、意思決定には必ず内部手続きが伴います。
予算要求、決裁、議会対応、要綱改正など、正当性が担保される一方で、スピードはどうしても遅くなりがちです。
一方、指定管理者制度では、現場判断での意思決定が可能になります。
例えば、
- 利用者ニーズに合わせて開館時間を見直す
- 空き時間を使って新しい自主事業を立ち上げる
- 利用が少ない部屋の用途を変える
といった判断が、条例や協定の範囲内であれば、日常的に行えます。
このスピード感は、住民サービスの質に直結します。
事業企画の自由度の違い
直営では「公平性」「前例主義」がどうしても優先されます。
やりたいアイデアがあっても、「他の施設との公平性」「過去にやっていない」という理由で止まることも少なくありません。
指定管理者制度では、成果を上げるための裁量が与えられます。
同時に結果責任も伴うものでもあります。
もちろん勝手なことはできませんが、「この施設をどう活かすか」という発想で事業を組み立てられる点は、大きな違いです。
民間委託・業務委託との違い
指定管理者制度と混同されがちなのが、民間委託・業務委託です。
両者の最大の違いは、「任されているもののレベル」にあります。
「作業」ではなく「経営」を任されます。
業務委託では、自治体が決めた仕様書通りに作業をこなすことが求められます。
清掃、受付、警備など、役割は明確ですが、改善提案をしても実行権限はありません。
指定管理者は違います。
施設全体をどう運営し、どう価値を高めるかという、経営そのものを担います。
そのため、失敗も可視化されるという状況になります。
- 目標利用者数
- 収支バランス
- 人員配置
- 事業戦略
これらを総合的に考える立場に立つという点で、指定管理者は「受託業者」ではなく、「運営主体」であると言えます。
どんな団体・企業が指定管理者になれるのか
「指定管理者=大企業でないと無理」というイメージは根強いですが、実際はさまざまな団体が担っています。
指定管理者になれる法人形態
指定管理者になれるのは、条例で定められた「法人その他の団体」です。
具体的には、
- 株式会社
- NPO法人
- 一般社団法人・一般財団法人
- 協同組合
- 社会福祉法人
など、営利・非営利は問いません。
重要なのは法人格の種類ではなく、「公共性を理解し、安定的に運営できるか」です。
小規模団体・地域団体でもなれるのか
地方では、数名程度の地域団体が指定管理者になっているケースも珍しくありません。
- 地元NPOが交流施設を運営
- 商店街組合が観光拠点を管理
- 一般社団法人が廃校施設を活用
といった事例は全国にあります。
行政が見ているのは規模ではなく、
- 継続して運営できる体制があるか
- 財務的に破綻しないか
- 地域との関係性があるか
という点です。
大きい組織の方が安心感があるため、審査では有利です。
ただ、自治体の事業は大企業が参入できるような事業ではない場合も多く、地域団体が担うということも多いです。
なぜ指定管理者に「選ばれない」団体が多いのか
よくある誤解① 想いがあれば選ばれる
想いは重要ですが、想いだけでは選ばれません。
公共施設は、市民の信頼を裏切らないことが大切なので、継続性が非常に重視されます。
それには、過去の実績も含まれます。
よくある誤解② 企画書の出来がすべて
企画書は入口に過ぎません。
その後の運営が想像できなければ、評価されません。
それは組織の実態や地域の信頼といった実際の部分も含まれます。
地域で知られていればいるほど、そのあたりがわかるので、その団体ごとで有利に働くこともあれば、不利に働くこともあるでしょう。
行政が見ているポイント
継続性:過去の実績、体制、地域での信頼
リスク管理:撤退時、赤字時、不測の事態への備え
ここが弱いと、どんな企画も採択されません。
指定管理者制度は「指定管理料をもらわなくても運営できる体制」をつくる覚悟が必要
指定管理者制度は、補助金的に使う制度ではありません。
最終的には、指定管理料がなくても回る構造を目指す制度です。
しかも指定管理の期間が終わると、再度プロポーザルになるのが一般的で、その次には同様に指定管理を担うことができるかはわかりません。
指定管理期間中に実績が出せなければ変更になりますし、実績がある程度出せていても、もっと魅力的な提案を行う競合が参入してきた場合は負けてしまう可能性もあります。
その期間中に次期の指定を受けなくてもその事業が運営できるような体制を作ること。
そうすれば、他の参入者は太刀打ちできなくなります。
私は、そこまで目指すことがベストだと考えています。
もちろん、すべての団体がそこまで目指す必要があるわけではありません。
ただし、それを意識しないまま参入することは、結果的に団体も地域も疲弊して、税金がなくなったら事業が継続しないといった自体になると考えています。
向いている人
- 施設を「場」として育てたい人
- 事業として考えられる人
- 地域と長く関わる覚悟がある人
向いていない人
- 短期的な安定収入を求める人
- 作業ベースで考えている人
- 自治体任せにしたい人
指定管理者制度は、まちづくりを仕事にするための一つのツールではあります。
しかし、制度そのままで使っていては、行政に依存する制度になってしまいます。
もしこの制度に本気で向き合うなら、まずは「経営できるか」を考えてみると良いと思います。