福岡県が実施する福岡推し活ワーケーションで、2025年12月16日〜18日にかけて大川市を訪問しました。
短期間の滞在ではありましたが、空き家・町並み保存、木工産業、観光、移住、そして人材育成といったテーマが有機的につながる、大川市ならではの取り組みを体感する機会となりました。
行程概要
行程については、以下の方々にご協力いただきました。
- 12月16日:小保・榎津藩境のまち保存会・株式会社はんざかい、大川観光協会
- 12月17日:大川市役所企画課・都市計画課、一般財団法人インテリア振興センター
- 12月18日:手作り家具工房日本の匠株式会社
初日:町並みを守り、使い続ける挑戦
初日は、伝統的な町並みが残るエリアで活動する小保・榎津藩境のまち保存会、株式会社はんざかいを訪問しました。
空き家問題への向き合い方
大川市では、歴史的価値のある建物が多く残る一方で、空き家の増加が大きな課題となっています。
そのような中、保存会では
- 所有者の悩みを丁寧に聞き取る
- 建物を「壊さずに残す」ことを前提に活用方法を探る
- 活用希望者とのマッチングを行う
といった活動を続けてきました。
建物の維持のためには修繕が必要ですが、高額の修繕費が必要になるケースもあり、保存の意思と経済性をどう両立させるかが一つの課題です。

保存会と株式会社の役割分担
興味深かったのは、リスクを取る部分は保存会ではなく株式会社はんざかいとして担っている点です。
2026年に2棟開の宿泊施設の開業を予定しており、出資者や地元金融機関、大川市との連携のもとで進められています。
「このまちに宿泊施設がなかった」という言葉が象徴的で、観光を点ではなく滞在として成立させるための基盤づくりが始まっていました。
体験を軸にした観光
保存会では、
- 組子づくり体験
- 抹茶体験
など、大川市の木工文化や暮らしに根ざした体験を用意しています。単なる観光消費ではなく、「2日ほど滞在して、じっくり体験してもらう」ことを目指している点が印象的でした。

家具のまち・大川の観光はどう収益化するか
続いて、大川市観光協会を訪問しました。
大川市観光協会では、「家具のまち・大川」を軸に、家具や木工を中心とした産業観光に長年取り組んできたとのことでした。
組子づくりや椅子づくりなど、30分ほどで完成する木工体験を通年で提供しており、特に春・秋の木工まつりの時期には多くの来訪者があります。
一方で、夏や冬は観光客が少なく、季節による集客の差が大きいことが課題として挙げられました。
また、イベントを実施しても、運営側や出店者の収益につながりにくいという悩みも共有されました。
「来ないといけない理由をどうつくるか」「観光がきちんと地域の収入になる仕組みをどうつくるか」という点は、強い問題意識として語られていました。
観光協会は約120事業者が加盟する会員制団体で、補助金や会費に加え、家具のインターネット販売などにも取り組んでいますが、人手不足や財源確保は大きな課題です。
家具のインターネット販売は今後大きな可能性を感じました。
また、柳川市をはじめとする周辺地域との広域連携や、有明海沿岸エリア全体での観光づくりの必要性についても話がありました。
単独で完結する観光ではなく、エリア全体で人の流れをつくる視点が、今後ますます重要になると感じました。
2日目:行政と産業支援の視点から見る大川市
大川市役所 企画課・企画課
企画課では、住宅、雇用、交通、高齢化といった都市構造そのものの課題について話を伺いました。
- 昭和期に建てられた住宅団地の老朽化
- 公共交通が乏しいことによる生活の不便さ
- 家具産業を支える外国人労働者の増加
など、現場感のある課題が共有されました。
また、道海島団地も見学させていただきました。
戸数は280ほどで、入居率は8割強と一定程度の充足はしています。
ただ、戸数が多いので、2割でも50質室以上の空室ということで、少なくない数です。
令和9年度に市が管理する住宅の方向性を検討をする予定もあるようで、今後の方向性については気になるところでした。

一般財団法人インテリア振興センター
インテリア振興センターは、。現在、約360社が関わり、
- 展示会事業(販路開拓)
- 産地PR(建築家・デザイナー向けファクトリーツアー)
- 人材育成(学生・社会人向け)
の3本柱で事業を展開しています。
大川の強みとして語られたのは、分業体制による柔軟なものづくりと、企業同士の距離の近さです。
隣の工場に部材を持ち込むような関係性は、他産地ではなかなか見られません。
一方で、「どこまでを“大川ブランド”として打ち出すのか」「各社のブランドとどう両立するか」という悩みも率直に語られました。

3日目:経営者の言葉から見える未来
最終日は、木工業を背景に持つ手作り家具工房日本の匠株式会社さんにお話を伺いました。
祖父・父の代から続く木工業を基盤に、現在は従業員36名規模の企業へと成長しています。
社員の約半数が女性であり、ものづくり・ことづくりの両面において、性別による役割の差はほとんどないという点が印象的でした。
「地方だから仕方がない」「地方だから諦める」という発想を、産業を生み出すことで乗り越えられるという言葉が強く心に残りました。
2030年までに「地域で一番選ばれる会社」になることを目標に、顧客だけでなく、働く人や社会からも選ばれる企業を目指しているそうです。
木工産業については、2032年に迎える「大川家具生誕500年」を一つの節目と捉えつつ、量産中心のものづくりから、体験・流通・輸出まで含めた広がりを模索しています。
木工所が減少していく現実を見据えながらも、土日限定の本格的な木工体験や、次世代の担い手を引き寄せる仕組みづくりなど、未来に向けた構想が語られました。
また、地方における分断や孤立への強い問題意識も印象的でした。
会社や仕事は、社会との接点をつくる重要な単位であり、その環境を良くしなければ、個人や家族の問題として持ち帰られてしまうという視点は、産業と福祉を結びつけて考えるヒントでもあります。
2050年を見据え、輸出ビジネスの確立や植樹活動にも取り組みながら、「バトンを次の世代に渡す」という言葉で締めくくられた話は、大川市の産業が単なる過去の遺産ではなく、未来に向けて編み直されつつあることを実感させるものでした。

ワーケーションを通じて見えたこと
今回の大川市訪問を通じて感じたのは、
- 課題は多いが、すでに動いている人がいること
- 行政、NPO、企業がそれぞれの立場で役割を持っていること
- 観光・移住・産業が分断されず、つながり始めていること
でした。
大川市は「日本一の家具のまち」という肩書きだけでは語りきれない、厚みのある地域だと思います。
町並み、産業、人の思いが重なり合いながら、次の一歩を模索している姿は、他地域にとっても参考になる点があるのではないでしょうか。
3日間にわたりお付き合いいただいた、大川市の永田さん、株式会社ことろどの内田さん、どうもありがとうございました!